春の桜に勝るとも劣らず愛されているのが、秋の紅葉。
日本人は古来、この紅葉の季節、赤や黄色に変わりゆく葉の美しさを愉しみ、同時に、世の無常に感じ入ってきました。
家の近所にある公園の紅葉も確かにとてもきれいだけれど、長年、皆がこぞって褒め称える紅葉の名所には、やはりそれなりの理由があります。
今年の紅葉狩りは、ぜひとも先人の愛でた素晴らしい名所を辿り、自然の生み出す類まれな美しさに驚嘆の声を上げてみましょう。
① 井の頭恩賜公園
都心からのアクセスも良い、井の頭恩賜公園は、東京屈指の紅葉狩りの名所です。
井の頭恩賜公園の歴史は古く、1917年、今からちょうど100年ほど前に開園しました。
散りゆく前に「最後の大仕事」とばかり、その身を真っ赤に染め上げる小さな葉っぱたち。
一つ一つは手のひらにおさまるほどの儚い存在なのに、それがたくさん集まったら、まるで私たちを包み込むようなスケールの大きい「美」となります。
そんな自然の懐に抱かれて、ピクニックを楽しみながらお酒を呑むと、日頃のちっぽけな悩みなんて、どこかに吹っ飛んでしまいそうですね。
② 京都東山 (哲学の道~円山公園~清水寺)
古都京都は、秋、まさに「紅葉の都」と変わります。
たくさんの名所と呼ばれる寺院がありますが、中でも真如堂から哲学の道を皮切りに、紅葉のお寺といわれる永観堂、山門から紅葉を見下ろす南禅寺、さらには知恩院から八坂神社、豊臣秀吉の正室ねねゆかりの高台寺、言わずと知れた清水寺…と東山を散策するコースは、平安貴族も羨む紅葉のオンパレードです。
途中疲れたら、円山公園の坂本竜馬の像と一杯酌み交わすのも、乙なものですね。
③ 箕面の滝(明治の森箕面国定公園)
大阪の紅葉狩りの名所といえば、箕面の滝。
他の名所は、例えば「紅葉と池」「紅葉と寺」という風に、静かなイメージが強いのですが、ここは一味違います。
山全体が赤く燃え上がったかのような紅葉。
その炎を消し去ろうとするかのように、止まることなく流れ続ける滝の水しぶき。
色づいた紅葉と光り輝く滝のコントラストは、まさに絶景です。
力強い滝の音を聴いていると、私たちの喉も自然とお酒を欲してきます。
④ 須磨離宮(神戸市立須磨離宮公園)
須磨離宮は、その名の通り、戦前、宮内庁が離宮を設けた地。
古くは、光源氏が、都落ちしてきた場所としても有名です。
須磨離宮公園の一番のスポットは、紅葉のトンネルです。
ライトアップされた紅葉を見ていると、なるほど、この須磨の地が愛されてきた理由も納得できます。
光源氏もこんな紅葉を肴に呑みながら、遠く都に残してきた女性たちに思いを馳せたのでしょうか。
お酒と言えば普段はビールやワインがお手軽ですが、日本の侘び寂びを感じるなら、やっぱり合うのは日本酒ですね。
⑤ 竜田公園
紅葉の名所といえば、知る人ぞ知る奈良の竜田公園を忘れる訳にはいきません。
この場所こそ、六歌仙の一人として名高い、在原業平が歌に詠んだ紅葉の地なのです。
「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くゝるとは」
まさに神代の昔から語り継がれてきた紅葉の美しさの集大成を見るようです。
心なしか他より優しい色をした紅葉と美味しいお酒に酔いながら、しばし悠久の時を感じたいものです。
唐代の大詩人、白居易は、「林間(りんかん)に酒を煖(あたた)めて紅葉(こうよう)を焼(た)く」という漢詩を残しています。
平家物語の巻第六「紅葉」にも、高倉天皇が、木の葉を集めて酒を温めて飲んでいた召使いたちに、「【林間に酒を煖めて紅葉を焚く】という詩の心を、誰がお前たちに教えたのか」と感心した逸話が残されています。
肌寒くなってきた秋、鮮やかに赤く色づいた紅葉をお酒に浮かべ、先人たちの感じた粋に浸りながら飲む紅葉酒。
忙しい毎日の喧騒をほんのひととき忘れて、そんな贅沢な時間を過ごしてみるのも良いですね。
紅葉の季節は、温かいお酒が恋しくなる季節でもあります。
それまでの緑の葉からは想像もつかないその真っ赤な紅葉。
もしかすると、木々の葉っぱたちも、秋という名の美味しいお酒に頬を染めているのかも知れませんね。
今年は、そんな紅葉の名所で私たちもご相伴にあずかりましょう。