「秋ナスは嫁に食わせるな。」
嫁姑の間に飛び散る火花が見えてきそうなことわざです。
でも、実は、ただそれだけの言葉ではないのかも知れません。
艶のある秋ナスがお店に並ぶ季節になりました。
「茄子紺(なすこん)」と呼ばれる美しい色彩は、まさに「食欲の秋」の代表格。
そんな秋ナスを憎らしいお嫁さんに食べさせるのはもったいない…。
嫁と姑は、前世は恋敵だったと言われるほど難しい関係。
このことわざからは、一筋縄ではいかない嫁姑問題の根の深さが、ひしひしと伝わってきます。
「秋なすび わささの粕につきまぜて よめにはくれじ 棚におくとも」
鎌倉時代の夫木和歌抄にはこのような和歌も収録されています。
けれども、実は、このことわざ、もう一つの違った意味を持つという説があります。
秋ナスとは言うものの、元々、ナスは夏野菜。
夏野菜は身体を冷やしてしまうから、妊娠出産を望む嫁には良くないものだと考えた
姑の気遣いの言葉だと言うのです。
嫁と姑が上手くいかないのは、そもそも嫁にとっての夫、姑にとっての息子、
という一人の男性を大切に思うが故のこと。
どちらも決して根っからの悪人ではないはずです。
このことわざではないけれど、もしかして、腹を割って話したら、姑の「嫌味」も、嫁の「生意気な態度」も
ささいな誤解の積み重ねと言うことも、なきにしもあらず…なのかも知れませんね。
ところで、先ほどの和歌に出てきた、「わささの粕」とは、「早酒の粕」と書きます。
酒粕に漬けた秋ナスの美味しさを詠った歌でもあります。
秋ナスは、粕漬けにしてよし、炊いて焼いて酒の肴にしてよし、とお酒との相性はバッチリです。
「二人して 秋なすを食う 仲のよさ」
狂歌の名人、大田南畝の歌のように、普段は仲の悪い二人さえ、仲良く並んで食べてしまう秋ナスの魅力。
秋ナスと旨いお酒で、秋の夜長に本心から語り明かせば、ほら、犬猿の仲の二人の距離も少し近づいた気がします。